サン・ジェルマン美食散歩 · 3/22

パリ · グルメ

フランスワインとリキュール入門ガイド

サン・ジェルマン・デ・プレ · パリ, フランス

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フランス人の友人の家に遊びに行ったときのこと。友人のお父さんが、アンズに似た甘い果物「ミラベル」で自家製のお酒を仕込んだと、味見をさせてくれました。甘くておいしかったのですが、アルコール度数がかなり高く、たくさんは飲めませんでした。フランスには、農家が果実酒や蒸留酒を自分で仕込む文化がありました。これを「ブイユール・ド・クリュ(bouilleur de cru)」といい、自分で育てた農産物からお酒を造って楽しむ農家の人々を指します。かつては法律上、アルコール換算で約10リットル、蒸留酒なら20リットル相当までを、無税で自家製として所有できる権利がありました。農村では、移動式の蒸留器を持つ巡回の蒸留職人が村を回って発酵させた果実酒を蒸留し、村中にお酒の香りが広がると人々が集まって一緒に夕食をとり、お祭りのように楽しんだといいます。こうした伝統は世代交代とともに多くが失われ、今ではお年寄りがかろうじて受け継いでいる程度です。2008年には税制上の優遇も廃止され、完全に姿を消しかけましたが、「昔のおじいちゃんたちの楽しみを奪わなくてもいいのでは」という世論もあり、一部は今も続いています。

昔に比べれば減ったものの、フランスは今もお酒の消費量が多い国です。自分で仕込まなくても、フランスの人々はほとんどがフランス産のお酒を飲みます。ほかの国のお酒に手を伸ばす必要がないほど、すでに十分な多様性があるからです。

■ フランスのワイン産地 パリを含む北西部を除けば、フランスはほぼ全域でワインを生産しています。面積は約55万平方キロメートルにもなり、気候や土壌などをひっくるめたテロワールがとても多彩で、地域ごとのワインの個性もはっきりしているため、飽きることがありません。東のシャンパーニュ(Champagne)では最高峰のスパークリングワインであるシャンパンを生産し、そのすぐ下のシャブリは、すっきりと爽やかな白ワインで知られます。ブルゴーニュは世界でもっとも高価なピノ・ノワールを生み出し、少し南下したローヌでは、スパイスを使った料理とよく合うスパイシーな赤ワインがつくられます。南西部には歴史あるボルドーの赤ワイン、温暖な南部ラングドックでは、香りと風味の濃い赤ワインが大量に生産されています。

■ 必ず飲みたいワインは? 1855年にグラン・クリュ・クラッセ(Grand Cru Classé)に格付けされたボルドーの最高級ワインや、ブルゴーニュの高級ワインはすでに有名で、現地に来たらボルドーやブルゴーニュのワイン、あるいはシャンパンを買おうと決めている旅行者も多いでしょう。フランス国外では酒税や輸入の物流コストがかかるため、現地よりずっと高い価格になるからです。ただ、有名なボルドーやシャンパンは価格が公開されており、為替の変動によっては国外との差があまり大きくないこともあります。そこでガイドは、フランス国外ではなかなか見かけない、フランスの人々が日常的によく飲む別の地域のワイン3つをおすすめしています。

1)アルザス(Alsace) アロマティックなワインの代表格ともいえるアルザスワインは、ドイツとの国境に近い、フランス北東部で造られます。ドイツの影響で、一般的なフランスワインと違い、ラベルにブドウ品種が表記されているため選びやすく、ボトルも一般的なものより細長い形をしています。 代表的な品種は、リースリング(Riesling)、ゲヴュルツトラミネール(Gewürztraminer)、ピノ・グリ(Pinot Gris)、そして少量のミュスカ(Muscat)です。この4品種は「ノーブル品種」と呼ばれ、高級なグラン・クリュワインは、いくつかの例外を除いてこの4品種だけで造られます。リースリングはミネラル豊富でドライなスタイルで、熟成のポテンシャルが高く、料理との相性も抜群です。ゲヴュルツトラミネールはバラやライチのような甘い香りがあり、辛い料理やタイ料理にもよく合います。ピノ・グリは酸味とボディがしっかりしていて、桃、マルメロ、ショウガ、ハチミツなどが重なる複雑なアロマを持つ、豊かなワインです。アルザスワインは総じて、唾液が出るような酸味と豊かな香りを備え、「食卓の万能選手」とも呼ばれています。アジア料理との相性もよいと評価され、世界中で人気です。ガイドは自身を「リースリングは外れない」と語る、リースリング伝道師だと紹介しています。 良いアルザスワインを選ぶコツは次のとおりです。まず「AOC」または「AOP ALSACE」と書かれた細長いボトルを探します。AOC・AOPは原産地統制呼称で、特定の地域で育てた良質なブドウから、定められた規定を守って造られたワインにのみ与えられる名称です。次に、ボトルにリースリング、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリのいずれかの品種名と、グラン・クリュ(Grand Cru)の表記があるかを確認しましょう。品種はお好みで選んでOK。辛口が好みならこの範囲から、甘口が好きなら「ヴァンダンジュ・タルディヴ(Vendange Tardive、遅摘み)」や、貴腐ブドウで造られたワインを意味する「SGN(Sélection de Grains Nobles)」と書かれたものを選びます。価格は30ユーロ以下で十分です。

2)ロワール(Loire) ガイドが個人的にコストパフォーマンス最高だと考えている産地です。ロワールは東西に長く伸びているため、さまざまなスタイルのワインが共存しています。ロワール川は東から西へ流れ、大西洋に注ぎます。川の上流に位置するサンセール(Sancerre)やプイィ・フュメ(Pouilly-Fumé)などで、ソーヴィニヨン・ブラン(Sauvignon Blanc)から造られるワインは、酸味が高く、すっきりと爽やかで、気軽に飲みやすいのが特徴です。価格も高くありません。樽熟成でバニラや酵母のような風味を持つものもたまにありますが、まれで、好みのスタイルを伝えればソムリエがうまくおすすめしてくれます。ガイドもよく飲むというヴーヴレ(Vouvray)のシュナン・ブラン(Chenin Blanc)のワインも有名です。スーパーなら10ユーロ未満が一般的で、酸味がよく、すっきりしてバランスもよいので、料理と合わせやすいワインです。 赤ワインなら、ピーマンのような香りが魅力のカベルネ・フラン(Cabernet Franc)がおすすめです。花の香りが生きたソーミュール(Saumur)やソーミュール・シャンピニー(Saumur-Champigny)、よりボディのしっかりしたシノン(Chinon)やブルグイユ(Bourgueil)がよいでしょう。ロワールワインはスーパーでほとんどが10ユーロ未満なので、旅行中、宿で夕食に気軽に1本添えるのにぴったりです。残ったワインは、翌日にロワール地方のヤギのチーズ「シェーヴル(chèvre)」と一緒にどうぞ。好き嫌いが分かれるチーズですが、同じ地域の料理とワインの相性は抜群です。

3)ジュラ(Jura) 最近フランスでかなり注目されている産地で、スイスに近いフランス東部、ジュラ山脈のふもとにある小さな地域です。ジュラの白ワインは、塩気を感じるような味わい、いわゆるミネラリティが料理を強く求めさせ、さらに良い酸味も加わって、思い出すだけで唾液が出てくるほどです。フランス国外ではなかなか見かけないのが少し残念なところ。先ほどのロワールよりは価格帯がはっきり上がりますが、ワインショップで10~30ユーロほどで見つかります。個性がとても際立っているため、近年大きな関心を集めています。 この地域では、土着品種の個性を生かしたワインが造られています。サヴァニャン(Savagnin)はジュラを代表する白ワイン品種で、ナッツ、ハーブ、ミネラルの香りが特徴。「黄色いワイン」を意味するヴァン・ジョーヌ(Vin Jaune)にも使われます。ヴァン・ジョーヌはジュラでしか造られない独特なスタイルのワインで、シェリーのように、酵母の膜の下で熟成させます。つまり、酸素に触れた状態で熟成されるのです。酸化したら酢になるのでは、と思いがちですが、そうはなりません。シェリーやヴァン・ジョーヌのように酸化熟成を経たワインは、クルミ、ヘーゼルナッツ、アーモンドといったナッツの風味がとても豊かです。この風味を生かして、シェリーの樽でウイスキーを熟成し、香りを移すこともあります。ヴァン・ジョーヌのボトルも一般的な形とは違い、ずんぐりとした形をしています。コンテ(Comté)チーズとの相性は抜群で、クリームベースのチキン料理とも合います。クリームソースに砕いたナッツを少し散らしたような、香ばしい味わいになります。

■ ワイン購入のヒント 旅行中に飲むワインなら、スーパーやショップで通常7~15ユーロ出せば満足できる1本が買えます。フランスワインのラベルには、地域名、生産者、格付けなどが記載されています。AOP・AOCは、その地域の厳しい規定に従っている印なので、この表示のあるワインを選べば失敗が少なくなります。より自由な基準のIGP(ヴァン・ド・ペイ)やヴァン・ド・フランス(Vin de France)にも優れたワインはたくさんありますが、見つけにくいため、AOP/AOC表記のワインをおすすめします。メダルのシールも参考になります。選ぶのが難しいときは、もっとも一般的で信頼のあるパリ農業コンクール(Concours Général Agricole)の金メダルシールが付いたワインを選べば、かなり安心です。 ワインはスーパーでも買えますし、ワイン専門店のカヴィスト(caviste)でも購入できます。カヴィストでは、必ずソムリエのスタッフにおすすめを聞きましょう。普段の好みと予算を伝えれば、ぴったりの1本を選んでくれます。やはり専門家のおすすめがいちばん確実です。

■ フランスのリキュール産地 フランスはワインだけでなく、さまざまな蒸留酒やリキュール(liqueur)でも有名で、地域ごとに独特のお酒が発達しています。北西部のノルマンディー(Normandie)とブルターニュ(Bretagne)は、リンゴから造るブランデーのカルヴァドス(Calvados)と、リンゴ果汁を発酵させたシードル(Cidre)で知られています。東部のアルザス・ロレーヌ(Alsace-Lorraine)では、黄金色のプラムで仕込むミラベル(Mirabelle)のオー・ド・ヴィーや、チェリーブランデーのキルシュ(Kirsch)などが造られています。南西部のコニャック(Cognac)とアルマニャック(Armagnac)は世界最高峰のブランデーとされ、地名そのものがお酒の代名詞になりました。南部プロヴァンス(Provence)のマルセイユ周辺では、アニスの香りのリキュール、パスティス(Pastis)が親しまれ、シャルトルーズ(Chartreuse)修道院のあるアルプスのグルノーブル(Grenoble)近郊では、130種類のハーブから造られる緑色のリキュール、シャルトルーズが生産されています。ノルマンディーのハーブリキュール、ベネディクティン(Bénédictine)や、ディジョンで有名なリキュール、クレーム・ド・カシス(Crème de cassis)もよく知られています。 ひとつの国の中に、これほど多彩な味と香りのお酒が共存している場所はまれです。旅行中に機会があれば、その地方のローカルリキュールや蒸留酒を味わってみるのも、美食を楽しむもうひとつの方法です。ただ、アルコール度数の高いお酒が多いので、ほどほどに。今回のツアーでは、シャルトルーズを試飲する機会があります。

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写真は ウィキメディア・コモンズ より(CC0)。

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