サクレ・クール寺院 · 2/5

パリ · 建築

サクレクール大聖堂の歴史

サクレ・クール寺院 · パリ, フランス

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サクレクールの建立が初めて構想されたのは、1870年の普仏戦争(プロイセン・フランス戦争)の後のことです。ドイツ統一を進めようとするプロイセンのビスマルクと、それを阻もうとするフランスのナポレオン3世が衝突したこの戦争は、スペイン国王の選出問題をめぐる両国の対立が決定的な引き金となりました。1870年にフランスが宣戦を布告したものの、プロイセンの軍事力が勝り、フランスの降伏で終結します。フランスはこの敗北を、国家の霊的・道徳的な堕落に対する罰と受け止め、贖罪の意を込めて聖堂の建立を決めました。

アレクサンドル・ルジャンティと画家のユベール・ロオ・ド・フルーリーは、戦争が始まるとすぐ、フランスが無事に生き延びられたなら聖堂建設の資金を集めると誓いを立てていました。フランスは侵略も植民地支配も免れ、二人は約束を果たそうとします。パリ大司教であったジョゼフ・イポリット・ギベール枢機卿の積極的な支援とカトリック信者の寄付によって工事が始まり、資金を寄せたパリ市民の名前は、今も聖堂の壁に刻まれています。敗戦に加え、1871年にパリ市民や労働者が蜂起して革命的自治政府を樹立したパリ・コミューンなど、相次ぐ社会の混乱から抜け出したいという願いもありました。

この地は、聖ドニ殉教の地として知られています。「殉教者の丘」を意味する名を持つモンマルトルが建立地に選ばれたのも、そのためです。210年、ここにパリ初代司教サン・ドニのための礼拝堂が建てられ、世界最初のキリスト教の聖所だったと伝えられています。伝説によれば、パリの守護聖人サン・ドニはローマ人によって斬首されて殉教し、彼が倒れた場所が、現在パリ18区にある小さな礼拝堂「サン・ドニ・ド・ラ・シャペル」教会だといいます。ここは古代ギリシャ・ローマ時代にドルイドを祀る神殿があった場所でもあります。ドルイドとはケルト人の大賢者のことで、魔力で神を呼び出し、天候を操ると伝えられた人々です。古代ローマ人も、この地の神マルスとメルクリウス(マーキュリー)の神殿を建てて崇めたといわれます。

こうした由緒深い場所に聖堂の建設が決まり、1874年に77人が参加した設計コンペで、ポール・アバディによるロマネスク・ビザンティン様式の設計案が採用されました。アバディは、数々の中世の礼拝堂の修復に携わった経験の持ち主です。民間建築の監査から経歴をスタートさせましたが、まもなく教区関連の建築を任されるようになり、1845年にはノートルダム大聖堂の修復にも加わりました。その経験を生かし、アバディは複数の聖堂の特徴を取り入れた折衷的な建築としてサクレクールを設計します。彼が手がけた南フランス・ペリグーのサン・フロン大聖堂をはじめ、コンスタンティノープルの聖ソフィア聖堂(アヤソフィア)やヴェネツィアのサン・マルコ大聖堂などが参考にされました。

工事は1875年から1914年まで続きました。アバディが1884年に亡くなったため、5人の建築家が順に後を継ぎます。最後の建築家が手がけたのが、今やサクレクールの最も美しい特徴のひとつとされる、瞑想のための鐘楼と池です。多くの建築家の手を経たうえ、途中で第一次世界大戦が勃発したこともあり、聖堂が完成したのは、戦争が終わって数年後の1919年でした。

サクレクールは「民族主義」をテーマに設計されました。円柱が支える玄関ポーチ(ポルティコ)には3つのアーチがあり、その両脇にジャンヌ・ダルクとルイ9世の騎馬像が立っています。ジャンヌ・ダルクは、フランス王位継承をめぐってフランスとイギリスが争った百年戦争の英雄です。主な戦場がフランスの地であったため国土が大きく荒廃したこの戦争のなか、大天使ミカエル、聖カタリナ、聖マルガリタの啓示を受けて戦場に赴いた国民的英雄が誕生しました。その青銅像は、正義に基づく平和を求め、民に慕われた徳高く質素な名君ルイ9世の像とともに、聖堂の前を守っています。

サクレクールといえば、まばゆいばかりの白い外観も欠かせません。これほど大きな建物をどうやって清潔に保っているのかと不思議に思う人も多いのですが、秘密は石材にあります。アバディがとくに求めて取り寄せた、シャトー・ランドン産の石灰岩で、凱旋門やアレクサンドル3世橋にも使われた石です。この石灰岩は、石灰岩や大理石、白亜の主成分である炭酸カルシウムからなる白い鉱物、方解石を特に多く含んでいます。湿度が上がると石そのものが方解石をにじませ、建物がいっそう白く見えるため、雨の日は格別に美しく映ります。曇りの日は訪れる人がやや少なめなので、曇りの朝早くに訪れ、ほのかに神秘的に輝く聖堂を眺めるのもおすすめです。

周辺には素敵なパン屋さんが多いので、早朝に聖堂を見学したあと、ブーランジェリーで朝食用のパンを買って帰るのにもぴったり。パリでパン屋を選ぶコツは、店のガラス窓に月桂樹の模様とともに受賞を示す文言が書かれている店を探すことです。毎年フランス一のパン店を選んで1〜3位を表彰し、受賞した店は外観に誇らしげに掲げています。焼きたてのバゲットは、何もつけなくてもおいしいものです。

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