パリ · 絵画
アンリ・ルソー《人形を抱える子ども》
オランジュリー美術館 · パリ, フランス
タイトルは「子ども」だが、顔つきはその年齢に似合わず成熟して見える。女の子のようでありながら、よく見ると顎のあたりにうっすらと髭のような跡もうかがえ、首はそもそも描かれていない。脚は大きく描かれている一方、人形を抱える右手は赤ん坊のように小さく描かれ、上半身は正面を向いているのに下半身はわずかに傾いており、どこか古代エジプト美術を思わせる。アカデミックな基準だけで見れば、決して上手く描かれた絵とは言いがたい作品である。
それでも人々はなぜこの絵を高く評価したのだろうか。その答えは当時の時代背景にある。産業化が急速に進んでいたフランスでは、美術の世界でも次々と新しい様式が生まれ、人々が疲労感を覚えていた時期だった。そうした流れの中で、ルソーはむしろ美術が発展する以前の原始的な画風へと完全に立ち返る道を選んだ。正式な美術教育を受けていなかった事情もあったが、遠近法や陰影法といった技法は学ぼうと思えばいくらでも学べたはずで、ルソーは「原始」そのものを絵の主題とし、そうした技法をあえて手放したと見ることができる。そしてその選択が受け入れられたのである。
こうした発想の転換によって、評論家たちは中世に遠近法を発見し新しい美術の扉を開いたと評価されるパオロ・ウッチェロになぞらえ、ルソーを「我々の時代のパオロ・ウッチェロ」と呼んだ。
iPhoneでスキャン