パリ · 彫刻
腕がないからこそ特別、ミロのヴィーナス
ミロのヴィーナス · パリ, フランス
今ご覧いただいているこの彫像の名前は「ミロのヴィーナス」。これほど美しい彫刻でありながら、作者は分かっていない。名前も彫刻家ではなく、発見された場所の地名にちなんで付けられた。
この彫刻は1820年代、ギリシャのミロス島である農夫が畑を耕していた際に偶然発見した。上半身と下半身は分かれ、腕はついたままの状態で見つかったと伝えられている。見るからに美しかったため農夫の目にもただ事ではないと映り、近くにいたフランスの外交官にこの彫刻を見せたところ、外交官はその場で購入を決めた。1年後にルイ18世に献上され、現在のルーヴルに収まることとなった。
この彫像がフランスに初めて渡ってきたとき、美術愛好家たちの間で大きな話題となったが、そこには三つの理由がある。一つ目は、ギリシャ・ローマ文明を象徴するにふさわしい彫刻がついに現れたということ。ミロのヴィーナス以前にルーヴルでその役割を担っていた「ラオコーン群像」は、ナポレオン政権崩壊とともにイタリアへ返還された後だった。その空白を埋める作品の登場を、フランス人たちは歓迎した。
二つ目は黄金比だ。当時ミロのヴィーナスは上半身と下半身の比率が1:1.618の黄金比だとされ、人々の期待を大いに膨らませた。三つ目は、腕がないという点。もともとは腕がついた状態で発見されたが、フランスへ運ぶ過程で折れて失われたと推測されている。ルーヴルは一時、腕の復元を試みたものの、腕がないことでかえって体の曲線が際立つこととなり、「腕があったらどんな姿だったのだろう」と想像力をかき立てる効果を生んだ。
専門家たちは、折れた右腕の位置とへその横がわずかにねじれている様子から、右腕は流れ落ちる衣の裾をつかんでいたのではないかと推測している。左肩が上がっていることから、左手にはヴィーナスの象徴である黄金のリンゴを持っていたのではないかという説もある。