パリ · 絵画
アルジャントゥイユのヒナゲシ畑
ジヴェルニー · パリ, フランス
この作品は、この部屋に展示されているものではありませんが、ミュージアムショップでも見られるモネの代表作のひとつなので、先にご紹介します。『アルジャントゥイユのヒナゲシ畑』は、妻のカミーユと長男のジャンを描いた絵です。よく見ると、左の奥にもう二人、ぼんやりと描かれています。手前の二人と奥の二人は、どちらもカミーユとジャンです。
この絵は、印象派の特徴をよく表している作品だといわれています。印象派は、写実的には描きません。もし写実的に描いたのなら、同じ人が二度登場する、ちょっとぞっとする絵になっていたことでしょう。印象派は、見えたとおりに描きます。画家がどの瞬間にどんな光を受けたかによって、刻々と変わる印象を描き出すのです。モネは筆の速い画家でしたが、油彩なので、数分で描き上げることはできませんでした。長い時間モデルとして立っていた幼いジャンは、体がむずむずしてきて、とうとう我慢できずに丘の上へ行ってしまいます。ジャンを連れ戻しにカミーユが丘を上っていく姿に美しさを感じたモネは、「ちょっとそこにいて」と声をかけ、すばやい筆づかいで二人をもう一度描きました。こうして生まれたのが、『アルジャントゥイユのヒナゲシ畑』です。絵のように愛らしい物語をもつ作品です。
モネとカミーユ、息子のジャンが幸せに暮らしていたある日、家族が突然7人増えます。七つ子が生まれたわけではなく、モネの支援者だったオシュデの妻アリス・オシュデと、その6人の子どもたちが身を寄せたのです。オシュデは、モネが財政難に苦しんでいたころに支援してくれた富豪で、百貨店を経営し別荘も持つ、まさに大金持ちでした。自分の別荘を飾るためにモネに絵を依頼し、支援していましたが、ある日破産してしまいます。借金もさることながら、破産の知らせがパリじゅうに広まるのに耐えられなかったオシュデは、一人で逃げてしまいました。残されたのは、妻と6人の子どもたちです。行き場のなかったアリスは、自分が支援していたモネの家を訪ねたのでした。モネも支援を受けていた身であり、事情が気の毒だったため、彼らを受け入れました。
3人家族に7人が加わった翌年、カミーユが次男のミシェルを出産します。こうして、モネ、カミーユ、長男ジャン、次男ミシェルの4人に、アリス・オシュデと6人の子どもたちが加わり、合わせて11人になりました。ところが、ここジヴェルニーに引っ越してきたのは10人です。1人いなくなっているのです。この作品に描かれているカミーユが、次男ミシェルを産んだあとに体が衰弱し、32歳という若さで世を去ったからです。その姿を描いた作品がこの家にありますので、次のチャプターでご覧ください。