パリ · ショッピング
ブシコーが見抜いたパリジャンの消費心理
パリ · パリ, フランス
ブシコーの計画どおりに設計された百貨店の店内は、広大なホールと目を引く見せ場、床から高い天井まで層をなして積み上げられた商品で満たされ、そのすべてが自然光と人工照明にきらめいていました。絶えず視線を奪うように美しく飾られた百貨店は、まるで新しい世界、あるいは宮殿に足を踏み入れたかのような感覚を与えました。
今でも百貨店に入ると、空気からして違うように感じられ、輝く照明や商品に目を奪われます。当時のパリジャンも同じ気持ちを味わったはずで、世にない新しい体験だっただけに、今以上だったことでしょう。訪れるだけで気分が上がるこの空間は、女性たちから絶大な人気を集めました。気分転換をしたいとき、髪型を変えたりショッピングをしたりするといいますが、美しい場所でかわいい品を買う行為そのものが心地よいからです。
周りの人がみんな「いい」と言って買っていると、必要のないものまで買ってしまったり、食べ物なら買って食べてみたりしますよね。みんながしていることを自分だけしていないと取り残されている気がして、流行を追いかけたくなるものです。他の人と同じことをしている、同じ儀式に参加しているという一体感が、購買を後押ししました。同じ集まりの人たちがみんな似た品を使っていて、それが話題になっているのに、自分だけ持っていないと、何か買わなければという気持ちになるのと同じです。当時の女性たちも、ほかの女性が消費しているのだから、同じレベルの人間ならそうすべきだという、体面を保つ理由で自分の消費を正当化しました。ブシコーはこの心理を利用し、流行品や新たに話題になりそうな商品を絶えず取りそろえて展示することで、売上を伸ばしたのです。
先に、中産階級が貴族や上流階級を真似て、庶民や労働者と自分たちを区別しようとしたと述べましたが、その願望をかなえたのが百貨店でした。中産階級は洗練された商品や準贅沢品を買うことで、自分の階級がひとつ上がったように感じ、「これくらいは買える」という財力を示そうとしました。ときには無理をしたり、お金を借りてまで贅沢品を買ったりしたのです。小説『ボヌール・デ・ダム百貨店』には、夫が懸命に稼いだお金を贅沢品に使ってはいけないと自分でも分かっていながら、病的なまでに品物を買い込み、ほかの夫人たちに見せびらかす場面が出てきます。このように当時の中産階級の女性たちは、収入に見合わない消費に伴う罪悪感を、より高い階層へ上がろうとする意識の一部だと考え、購買を正当化しました。ブシコーはこの心理を利用し、洗練された趣味の商品や準贅沢品を前面に並べて、購買へと導いたのです。
こうした心理は、想像以上に強く働きました。ボン・マルシェが開店すると、パリでは窃盗犯が大量に現れます。百貨店で万引きをする人が増えたのです。それは、パンを盗んだジャン・バルジャンのように飢えに迫られてのものではなく、病的な窃盗であり、むしろある程度の収入のある富裕層に多かったといいます。当時のある精神科医は、「最近、パリだけに見られる特異な現象がある。それは窃盗が頻発し始めたことであり、この現象は百貨店の登場とともに現れたため、これを『百貨店病』と呼ぶことにした」と評しました。こうしたパリの様子からは、百貨店が当時のパリジャンにとってどれほど驚くべき衝撃だったか、新しい文化や流行への欲望がどう作用したかがうかがえます。その心理を巧みに突いたブシコーのボン・マルシェが成功したのは、当然のことでした。
では、人々が盗みまで働くほど流行した商品とは何だったのでしょうか。上流階級を真似するために買われた準贅沢品とは?今も高価なまま残っているものもあれば、ありふれたものになったものもあります。次の章でご紹介します。