パリ · 絵画
ゴッホが描いたオーヴェルの教会
オーヴェル=シュル=オワーズ · パリ, フランス
いま立っているのは、ゴッホの代表作のひとつで、オルセー美術館に所蔵されている「オーヴェルの教会」に描かれた、まさにその教会です。作品と実際の教会を見比べて、どんな印象を受けるでしょうか。
ゴッホは「星月夜」を描いたサン=レミの療養院にいたころから、生まれ故郷のズンデルトやニューネンへの郷愁にひたることがありました。療養院を出る数週間前にテオへ宛てた手紙には、「僕は病気だが、それでも記憶をたどって小さな絵を何枚か描いた。いずれ、故郷の思い出を描いたこれらの絵を見てもらえるだろう」と綴っています。この教会の絵は、そんな思いをよく物語る一枚です。教会の正面は日差しに明るく輝く一方で、建物そのものは自らの影を抱いてたたずんでいます。シンプルで深い青は、同じ時期にオーヴェルで描かれた「アデリーヌ・ラヴーの肖像」にも使われており、教会の前で道が分かれていく様子は「カラスのいる麦畑」にも登場します。
教会は12世紀初めに建設が始まったゴシック様式で、17世紀にロマネスク様式の増築が行われたとされています。ゴッホの華やかな筆づかいによって、絵の中の教会は色彩豊かな記念碑のような姿で描かれました。教会は大地から浮き上がるかのようにそびえ、溶岩や泥の奔流が建物をのみ込みそうに、道が左右に分かれています。ゴッホならではの強烈な色彩と筆触が際立つ作品です。この絵がゴッホの最後の作品だという説もあり、本人にとっても私たちにとっても、深い意味をもつ一枚といえるでしょう。
絵の左右には二本の道が見え、片方の道には女性たちが歩いています。彼女たちの装いは、フランドル地方、つまりゴッホの故郷オランダの典型的なもので、望郷の念がにじみます。また、絵の中の教会にはどこにも出入口がありません。実際の教会の裏側を描いているためです。ベルギーの炭鉱で福音を説いていたゴッホは、鉱夫たちの側に立ったために伝道師の職を解かれました。聖職者への道をふさいだ教会への思い、あるいは深い貧しさと苦しみの中で生きる自分自身を、閉ざされた扉で表そうとしたのかもしれません。
もうひとつ付け加えると、空のコバルトブルーの部分は、筆の線が太く見える上半分と、線がほとんど見えない下半分に分かれています。油彩では重ね塗りが欠かせませんが、線がはっきり見える部分からは、ゴッホが急いで描いた様子がうかがえます。70日間で80点の油彩を描くには、絵の具が乾くのを待つ余裕などなく、重ね塗りを省いて素早く仕上げるしかなかったのでしょう。あくまで絵を見つめて感じた個人的な見方ですが、この作品はゴッホの画風をそのまま味わえるだけでなく、彼の精神世界までも映し出した傑作のひとつだと言えます。
教会の中に入ってろうそくを灯し、しばし祈りを捧げるのも良い思い出になるでしょう。教会の外のベンチで涼しい風にあたりながら、ゴッホが描いた教会をゆっくり目に焼きつけるのもおすすめです。
次の目的地は、ゴッホとテオの墓です。教会の絵に背を向けて左側の道を5分ほど上ると、共同墓地が見えてきます。


