パリ · 宮殿・各室
戴冠の間 - 戴冠式の絵
ヴェルサイユ宮殿 · パリ, フランス
壁の一面を埋め尽くすこの絵は、ナポレオンの戴冠式を描いたものである。聖職者や貴族たちが見守る中、ナポレオンが皇后ジョゼフィーヌに冠を授けている場面が描かれている。しかし、この場面は実際そのままではなく、演出されたものだ。当時の一般的な戴冠式では、権力は神に由来するという意味合いから教皇自らが冠を授けていたが、ナポレオンは違った。彼は自分自身の手で自らの頭に冠を載せたのである。神や教会ではなく、自分自身が自分を皇帝にするという宣言だったわけだ。しかしこの場面は絵から完全に削除されている。教皇を軽んじる姿が他のヨーロッパの君主たちには傲慢に映り、外交上危険だったためである。そこでナポレオンが妻に冠を授け、教皇は手を挙げて祝福するという、より穏やかな場面に描き直された。
絵の中央にはナポレオンの母レティツィアが描かれているが、彼女もまた実際の戴冠式には出席していなかった。家族間に不和があったためである。それでもナポレオンは画家に「母を描き入れよ。我が家族が不仲であることを大衆が知る必要はない」と指示し、こうして母は絵の中央に優雅な姿で描かれた。のちにこの絵を目にした母は、「自分があの場にいなかったことは世間周知の事実なのに、滑稽なことだ」と冷ややかに反応したと伝えられている。
この作品は原画ではないが、偽物でもない。同じ画家ジャック=ルイ・ダヴィッドが二度目に描いたものだからである。最初の作品は現在ルーヴル美術館に所蔵されており、両者はほぼ同一だが、目立って異なる箇所が一つある。左側に並ぶ女性たちの中で一人だけピンクのドレスを着ている人物だ。同じ絵を二点描く際、画家は通常わずかな違いを設けることで、これが単なる複製ではなく新たに描かれた作品であることを示す、一種の印のようなものを残す。ピンクのドレスの女性はナポレオンの妹ポーリーヌ・ボナパルトで、当時ヨーロッパ屈指の美女とされていた。彼女の美しさを常々称賛していたダヴィッドは、二作目では彼女をより際立たせて描いた。画家ダヴィッド自身も、観衆の中でスケッチをする姿で絵の中に登場している。
ダヴィッドがこの絵を二度描いた理由は金銭のためだった。ナポレオンの失脚後、専属画家だったダヴィッドはフランスを追われベルギーへ亡命せねばならず、財産は差し押さえられ、収入も途絶えた晩年を送っていた。そこへアメリカの実業家たちが、あの有名な戴冠式の絵をもう一点描いてくれれば大金を払うと申し出た。当時フランス王政がナポレオンの痕跡を消そうとしていた状況の中で、ダヴィッドには自らの主君が最も輝いていた瞬間を再び描き、世に伝えたいという思いもあっただろう。追放されたダヴィッドがフランスに戻って原画を見ることもできず、最初の作品を描いてから15年も経っていたにもかかわらず、これほど精巧に再現できたのは、原画の構図がすでに彼の記憶に刻み込まれており、細部の人物を描いたスケッチを保管していたためだという。