パリ · 絵画
自転車でつくった雄牛
ピカソ美術館 · パリ, フランス
『雄牛の頭(Tête de taureau)』は、自転車のサドルとハンドルを、ただ組み合わせ直してつくられた作品です。どちらも雄牛とはまったく関係のない物ですが、一緒に置かれた途端、雄牛の頭になりました。とはいえ、サドルだけを置いて雄牛の顔に見えるでしょうか。ハンドルだけを置いて雄牛の角に見えるでしょうか。もちろん見えません。ピカソが当時の人々に見せた、実にユニークな芸術です。
こうした素材が使われた背景には、時代の影響もありました。1942年は第二次世界大戦のさなか。ナチス・ドイツに占領されたパリでは、芸術家たちの自由が奪われていました。展覧会を開けないばかりか、材料も深刻なほど限られていたのです。だからといって、ピカソが制作を止めたわけではありません。むしろ抵抗するかのように、身の回りにあるものを素材にしていきました。木切れ、骨、紙くず、たばこの箱。キャンバスが手に入らないときは、板やハードボードに描き、新聞紙に描いた作品さえあります。自転車のサドルとハンドルバーで雄牛の頭をつくったのも、その延長線上にあります。
このような芸術は、フランス語で「集合」を意味する「アサンブラージュ(assemblage)」と呼ばれます。廃物や日用品などを寄せ集めて、ひとつの新しい作品に仕上げる手法で、物と物との配置や構図がなにより重要です。複数の物がうまく組み合わさって初めて、新しい対象として成り立つからです。これは、ジョルジュ・ブラックとピカソが生み出したパピエ・コレ(コラージュ)とよく似ています。コラージュが平面に布や雑誌を貼るものだったのに対し、それを立体の3次元に置き換えたのがアサンブラージュであり、『雄牛の頭』はこの様式の先駆的な作品といわれています。対象をばらばらにして、徹底的につくり直すという点では、キュビスムも同じでした。対象を限界まで分解し、正面、側面、背面をゆがんだように一枚のキャンバスに描き出したのですから。キュビスム、コラージュ、アサンブラージュと、対象をいったん壊して分け、新たに創造し直すことは、ピカソの芸術を貫くひとつの流れとして捉えることができます。
