パリ · 建築
ヴォルテールの棺
パンテオン · パリ, フランス
ヴォルテールは、18世紀フランスを代表する啓蒙思想家です。啓蒙主義とは、18世紀後半のヨーロッパで広まった、人間の理性によって社会の問題や人間の無知を明らかにしようとする思想運動です。
ヴォルテールの像は、左手に本、右手にペンを握っています。彼はずば抜けた毒舌家で、文章だけで莫大な富を築いた作家でもありました。ヴォルテールは本名ではなくペンネームで、本名はフランソワ=マリー・アルエ(François-Marie Arouet)。ヴォルテールを含めて、ペンネームを160も持っていたといわれます。
彼は文章のなかで「恥知らずを叩きつぶせ!」という言葉をたびたび使いました。ここでいう恥知らずとは、主にカトリック教会の厚顔無恥を指しています。人々の信教の自由を抑えつける教会の現状を批判したのです。
教会が信教の自由を奪った例として、こんな話があります。ある青年が、カトリックではなくプロテスタントだという理由で弁護士になれず、挫折してギャンブルにのめり込み、ついには自ら命を絶ちました。当時、プロテスタントは医師にも、役人にも、弁護士にもなれませんでした。ところが青年の死後、デマが広まります。息子がカトリックに改宗しようとするのを止めるため、父親のジャン・カラスが息子を殺した、という根拠のない中傷でした。そして、ジャン・カラスはこの中傷によって死刑にまでされてしまったのです。
ヴォルテールは、この理不尽なジャン・カラス事件を題材に本を書き、それは当時のベストセラーになりました。彼は、カトリック以外のどんな宗教にも寛容でない教会の姿を指摘し、こうした恥知らずを叩きつぶさなければならないと訴えました。この本は、フランスを「トレランス」の国、すなわち寛容の国にするうえで大きな影響を与えた一冊でもあります。
宗教、政治、言論など、人間の自由を大切にしたヴォルテールの思想は、棺にも刻まれています。棺の左側には「人間の精神に強い刺激を与え、私たちのために自由を準備した」という言葉があります。私たちに知的な刺激と自由を与えてくれた、という意味で、フランスで人間の普遍的な自由と権利を守るうえでヴォルテールが貢献したことから、この言葉が刻まれました。


