パリ · 絵画
同じ孤独を見抜いた二人、ゴッホ『ポール・ガシェ博士の肖像』
オルセー美術館 · パリ, フランス
この絵に描かれた男性は、ゴッホの晩年を共に過ごしたポール・ガシェ博士である。全体的に冷たい色彩が支配するこの肖像画は、青を基調として憂鬱で沈んだ雰囲気を醸し出している。片手で顎を支え、心配そうで陰鬱な表情を浮かべるガシェ博士の姿が、その雰囲気をさらに濃くしている。ゴッホはこの絵の中のガシェ博士について「我々の時代の孤独な表情」だと語ったが、これはゴッホ自身がガシェ博士に対して個人的に抱いていた感情とも重なるものだった。
ゴッホはパリでの生活を切り上げ1888年にアルルへ下ったが、翌1889年、精神疾患の悪化によりサン=レミの療養院に入院する。そして翌1890年、弟テオの勧めでパリ近郊の小さな村オーヴェル=シュル=オワーズへ向かうことになるが、テオが兄をそこへ送った理由は、まさにガシェ博士がその村にいたからだった。ガシェ博士は本業こそ医師だったが芸術を愛し、マネ、モネ、ルノワール、セザンヌといった印象派画家たちと親交を深めていた。ピサロがテオに、ゴッホを彼のもとへ送るよう勧めたと伝えられている。
最初、ゴッホはガシェ博士をあまり気に入っていなかったようだ。テオに宛てた手紙には、ガシェ博士は自分よりも病んでいる人のようで信頼しがたいと記されている。しかし間もなくゴッホは彼との共通点を見出し、二人はかけがえのない友人となった。結局、ゴッホがガシェ博士に対して感じた孤独で憂鬱な、そして寂寥とした感情は、この肖像画にそのまま投影されているのである。
ガシェ博士と過ごした二か月ほどの間、ゴッホは70点余りの絵を描き、この作品もその一つだ。残念ながらゴッホはこの絵を完成させてまもなく、拳銃で自ら命を絶った。その事実を知った上で改めて見ると、この絵が伝える憂鬱さはいっそう深く迫ってくる。