パリ · 建築
別れ ― 星空と野の花
サント・シャペル · パリ, フランス
サント・シャペルの長い旅も、そろそろ終わりに近づいてきました。顔を上げて、遥か高いステンドグラスを読み解いてこられたので、首が少しこわばっていることでしょう。信仰のある方には聖書を一冊読み通したような充実感が、信仰のない方には西洋文明を支える巨大な柱を制覇したような満足感が、そのこわばりを十分に埋め合わせてくれるはずです。
外へ出てから立ち寄るのにおすすめの場所をご紹介します。すぐ隣、歩いて1分の距離にコンシェルジュリーがあります。のちにマリー・アントワネットが、ギロチンへ向かう前に幽閉されていた牢獄です。共通券をお持ちでしたら、今日あわせて見学するとよいでしょう。かつて同じ王宮だった建物が、一方は美しい礼拝堂、もう一方はひんやりとした牢獄として残っているので、並べて見ると感慨もひとしおです。そして歩いて5分で、ノートルダム大聖堂です。今日ずっとお話ししてきたあの茨の冠が、実際に納められている場所です。この2か所を同じ日に続けて訪れれば、茨の冠が800年を経て新しい安住の地へ移っていった、その5分ほどの道のりを、自分の足で歩くことになります。
もう一つ、ロマンチックなヒントを。この上階礼拝堂では、毎晩クラシックのコンサートが開かれます。ヴィヴァルディの「四季」のような弦楽の室内楽がよく演奏され、800年前のガラスに囲まれて聴く弦の音色は、間違いなく特別な体験になります。見学チケットとは別に予約が必要で、席はすぐに埋まりがちですので、早めにお調べください。公演日程は、インターネットで「サント・シャペル コンサート」と検索すれば出てきます。日が長い夏には、早い時間帯の公演を選ぶと、ステンドグラスの光がまだ生きているうちに、音楽と美しい景色を同時に楽しめます。遅い時間の公演では、窓が暗くなってしまいます。
帰り道には、パリで最古とされるシテ島の花市場も通ります。先ほど柱頭の彫刻で見た13世紀の野の花が、800年後も同じ島で売られているわけです。もう少し歩く余裕があれば、島の西の端にあるポンヌフとドーフィーヌ広場もおすすめです。観光客が少なく静かで、今日見たものの余韻をそっと整理するのにぴったりの場所です。
最後にひとつだけ。今日ご覧になったこの光は、写真ではけっして写し取れません。ですから写真ではなく、顔を上げたとき頭上から降り注いだ、あの圧倒的な青い光と、胸の高鳴りを覚えていてください。800年前にこの階段を上ってきたすべての人が同じように感じた気持ちであり、あなたはいま、その長い行列の最新の一人になったのです。サント・シャペルのお話はここまでです。狭い階段を上り下りしながらご一緒くださり、本当にありがとうございました。この光を、いつまでも覚えていてください。どうぞお気をつけてお降りください。
