パリ · 建築
ジョセフィン・ベイカーの棺
パンテオン · パリ, フランス
この部屋には、パンテオンに最も新しく移葬された、20世紀の偉人2人がいます。第一次世界大戦の従軍兵モーリス・ジュヌヴォワと、アメリカ出身の歌手でダンサー、ジョセフィン・ベイカーの棺です。ジョセフィン・ベイカーは、パンテオンに安置された初めての黒人女性であり、初めての芸能人でもあります。しかもアメリカ出身の芸能人。フランスの歴史的な英雄をたたえるパンテオンにはふさわしくない肩書きにも思えますが、ベイカーはいったいどんな理由でここに安置されたのでしょうか。
ベイカーは、アメリカのとても貧しい家に生まれ、幼いころから働いていました。路上の劇団で働いているところを見出され、ブロードウェイ初の黒人ミュージカルに抜擢されます。そのとき、パリの業界関係者が彼女の才能を見抜いてフランスへ連れていきました。当時のフランスでもジャズが人気だったため、踊りも歌も上手で才気あふれるベイカーは、フランスの社交界で大人気になりました。パリのあらゆるミュージックホールが、こぞって彼女を招こうとしたそうです。ヘミングウェイやパブロ・ピカソも、彼女を絶賛しました。
ベイカーには、芸能人のほかに3つの顔がありました。ひとつめは、第二次世界大戦中にナチスと戦ったフランスのレジスタンスのスパイです。海外公演を行う芸能人という立場を生かし、フランスの情報機関から受け取った機密情報を楽譜に隠して、海外にいるフランスの官僚に届ける情報員の役割を果たしました。芸能人だったので、他国の社交界の人物から情報を得るのにも好都合でした。ふたつめは、レジスタンスの空軍に志願し、北アフリカの基地で自ら参戦したことです。そして3つめは、アメリカの人種差別と戦った人権活動家です。海外公演で世界的なスーパースターになったベイカーは、変わらないアメリカの人種差別に憤りました。当時のアメリカには白人専用のホテルがあり、レストランでも黒人の入店が断られていました。彼女はアメリカ公演で人種隔離政策に反対すると訴え、それを知ったFBIによって入国を制限され、アメリカ人でありながら10年間アメリカに入れませんでした。のちに入国できるようになると、マーティン・ルーサー・キング牧師とともに人種差別に反対する演説も行いました。
亡くなる直前まで世界各地で公演を続けたベイカーは、68歳で脳卒中により世を去りました。パンテオンで出会う最後の人物であり、最も現代的な人物です。