地獄の門(石膏)
今ご覧いただいているこの作品は、オーギュスト・ロダンの『地獄の門』という作品です。
この模型は、ロダンが『地獄の門』をブロンズで制作する前に、試作として作った石膏模型です。
ロダンは生涯を通じてこの青銅の扉の完成に取り組みましたが、完成を見ることなく亡くなりました。そのため、この石膏模型は、ロダン自身の手によって制作された唯一の『地獄の門』といえます。
おそらく、パリのロダン美術館や東京の国立西洋美術館を訪れたことのある方であれば、
「あれ? 以前そこでロダンの『地獄の門』を見たことがある」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
現在、パリのロダン美術館をはじめとして、世界で7つの美術館にブロンズ製の『地獄の門』が所蔵されています。
これら7つのブロンズ製の『地獄の門』は、ロダンの死後、この石膏模型をもとに型を取り、制作されたものです。
ですので、現在、ロダン自身の手によって生み出された唯一の『地獄の門』は、この石膏模型だけだといえます。
個人的に『地獄の門』は、ロダンの作品の中で最もコスパの良い作品だと思っています。
なぜなら、この門に刻まれた彫刻はすべて、ロダンを代表する彫刻で構成されているからです。
では、門に近づいて、細部を一つずつ見ながら解説を続けていきましょう。
まず頭を上げて作品の上をご覧ください。中央の上部に、手に顎を乗せて何かじっくりと考え込んでいる人物がいます。
ご確認いただけましたか?
この彫刻、どこかで見たことがあるような気がしませんか。
そうです。まさにロダンの最も有名な作品の一つ、『考える人』です。
この人物が地獄の光景を見下ろしながら、静かに思索する姿です。
ここで、皆さんに一つ質問です。
中世イタリアの人物で、地獄・煉獄・天国を題材にした長編詩を書いた有名な人物がいます。その人物とは誰でしょうか。
そうです。
ダンテです。
ダンテは、地獄・煉獄・天国について長編詩『神曲』を書きました。
多くの方が耳にされたことがあるかと思います。
ロダンが彫刻したこの『地獄の門』は、ダンテの『神曲』地獄篇からインスピレーションを受けて作った作品です。
では、地獄を見下ろしながら静かに考え込むこの人物は、一体誰なのでしょうか。
そうです。この『考える人』のモデルとなったのは、まさに『神曲』の作者ダンテなのです。
ダンテは今、地獄の光景を見下ろしながら、人間の生き方や人生の意味について深く思索しているのです。
この作品の最上部をご覧いただくと、
3人の人物がいます。
この3人の人物はダンテの『神曲』に登場する人物で、欲望、傲慢、強欲を象徴しています。
左側をご覧いただくと、落下する男性の彫刻があり、その下には『ウゴリーノ』という作品も配置されています。
右端には、ロダンのもう一つの代表作『接吻』も見ることができます。
では、ロダンはなぜ、数々の代表作が込められた『地獄の門』を完成させることなく、未完のまま残したのでしょうか。
その理由は、ロダンがこの石膏模型の段階で、すでに一度展示を行っていたからです。
その際、人々の反応は必ずしも好意的なものではなかったと言われています。
そのため、「これ以上彫刻を加えると、かえって良くないのではないか」という批判的な意見に大きく失望し、それ以降、この作品に手を加えることはなかったそうです。
その理由には少し疑問が残るかもしれませんが、いずれにせよ、ロダンはこの作品を未完成のまま残すことになりました。
それでも、これほど素晴らしい作品だからこそ、未完成の状態であっても、十分に大きな魅力を感じることができます。
それでは、『地獄の門』をゆっくりとご鑑賞ください。ご覧になった方から、次の作品へお進みください。