晩鐘
これからご覧いただく作品は、ミレーの代表作の一つ、《晩鐘》です。
ご覧の作品には、畑で働いていた一組の男女が、教会から響いてくる鐘の音を聞き、手を止めて祈りを捧げている姿が描かれています。二人が静かに祈る姿からは、とても敬虔で厳かな雰囲気が伝わってきます。
フランス語の原題は《L’Angélus(ランジェリュス)》で、「アンジェラスの祈り」という意味です。
カトリックでは、朝、正午、そして夕方の一日に三回、お祈りを捧げる習慣があります。 これが「アンジェラスの祈り」です。
この絵は、ミレーが幼い頃の思い出をもとに描いた作品です。子どもの頃、畑で働いていると、夕方になると教会の鐘が鳴りました。すると祖母は、手を止めて鐘の音に合わせて祈りを捧げていました。ミレーは、その祖母の姿を思い出しながら、この作品を描いたのです。
ミレーは農村出身で、パリで短期間暮らした時期を除けば、人生のほとんどを農村で過ごしました。
そのため、ミレーにとって農村は自分の人生そのものでした。だからこそ、ミレーの作品の多くには農村の風景や、そこで暮らす人々の姿が描かれているのです。
"しかし、この作品はあまりにも有名になったため、ある別の説も広まっています。
一気に、感動的な物語だった作品が、まるでサスペンスのような話に変わってしまいます。
二人の男女の間に、地面に置かれた一つのかごが見えるでしょうか。
これは、じゃがいもを入れるためのかごです。
このかごには、実は赤ちゃんの遺体が入っていたものだったのではないか、そしてミレーがそれをじゃがいものかごに描き直したのではないか、という話が一時期、本当のことのように広まっていました。
今でも、このように説明される方はいらっしゃいます。
この話を最初にした人物は、スペインの有名な画家、サルバドール・ダリです。
そして、この作品から着想を得て描かれた別の作品もあります。
この説をさらに強めるきっかけとなった出来事がありました。
「やはりダリが見抜いていたことは本当だったのではないか」という話が広まるきっかけになったのです。
しかし、当時の画家たちは非常に貧しかったため、何度も新しいキャンバスを用意することができず、作品の上から絵を描き直すことは珍しいことではありませんでした。
ミレー自身も、絵の具を自由に買うこともできないほど貧しい画家だったため、当然、作品を上から描き直すことはあったと考えられます。
しかし、ミレーの作品を研究している専門家たちは、この説は事実ではないと否定しています。
なぜなら、たとえ貧しい人であっても、誰かの葬儀を行う際には最低限必要な道具があります。しかし、この絵の中には、そのようなものがまったく描かれていないからです。
やはり有名な作品だからこそ、さまざまな物語が生まれ、それがこの絵をさらに興味深いものにしているのだと思います。
この作品には、もともと購入を希望していた人物がいました。
しかし、何らかの理由で、その購入者は突然購入を取りやめてしまいます。
そのため、ミレーは生活に苦しむことになります。
それを気の毒に思ったある画商が、ミレーを支援するためにこの作品を購入し、販売することにしました。
その後、この作品はアメリカで大きな人気を得ることになります。
当時のアメリカでは、質素な生活を重んじ、宗教的な価値観を大切にする清教徒的な精神がまだ強く残っていました。
そのため、このように敬虔な暮らしの姿を描いたミレーの作品は、多くの人々から人気を集めました。
オークションに出品された《晩鐘》は、アメリカ美術協会とフランスのルーヴル美術館による争奪戦の末、アメリカ美術協会が購入することになりました。
ルーヴル美術館は《晩鐘》を再びフランスへ取り戻したいと考えていましたが、あまりにも高額だったため、購入することはできませんでした。
"その後、フランスの百貨店王と呼ばれたアルフレッド・ショサールという人物が《晩鐘》を買い戻し、ルーヴル美術館に寄贈しました。
ここまでが《晩鐘》についての説明でした。
"絵をもう少しご覧になりたい方は、どうぞゆっくりご鑑賞ください。