カナの婚礼
後期ルネサンスになると、芸術の中心はフィレンツェやローマからさらにヴェネツィアへと移っていきます。
こちらの作品は、ヴェロネーゼの《カナの婚礼》です。 ルネサンス後期になると、
後期ルネサンスになると、絵の中に物語性が強くなり、登場人物の表情や その場の空気感まで生き生きと描かれるようになるんですね。
では、絵を少し見てみましょう。
とにかく大きいですよね。
ルーヴルでいちばん大きな絵なんです。
もともとはヴェネツィアのサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会にあった作品ですが、ナポレオンが イタリア遠征の際に持ち去りフランスへ運ばれました。
描かれているのは聖書に出てくるイエスの最初の奇跡です。
内容は
カナという小さな村の結婚式で新郎新婦が用意していた葡萄酒が足りなくなって困っている様子を見て イエスの母マリアがイエスに助けを求めます。
するとイエスはしもべたちに六つの壺へ水を満たすよう命じ その水が葡萄酒に変わるという奇跡を起こすんです。
では、絵の右下を見てください。
黄色い服のしもべが 白い水瓶の中身を金色の器へ注いでいますが、注がれているのは 透明な水ではなく赤いワインなんです。
その右後ろで 青い服の男性が驚いた表情で見ています。
しもべの左後ろの男性はいわばソムリエ役ですね。 水が葡萄酒に変わっただけでなくさっきまでの葡萄酒よりも さらにおいしいことに驚いて杯をのぞき込んでいます。
では今度は 絵の中央を見てみましょう。
中央に座っているのは 誰でしょう。
新郎新婦……
ではありません。
中央の男性は イエスです。
つまり、この絵の主役は新郎新婦ではなく イエスなんですね。
イエスの左に座っているのが母マリア。 その周りには 弟子たちがいます。
イエスやマリア、弟子たちの服装はイエスの時代らしい雰囲気を残していますが背景やその他の人物たちは かなり洗練された姿に見えますよね。
これは ヴェロネーゼが生きていた時代のヴェネツィアとして描かれているからです。
本来、カナは小さな村ですが この作品では舞台がヴェネツィア風に置き換えられているため、こんなに華やかなんですね。
そして中央下で
楽器を演奏している人たちにも注目してみてください。
ここには画家自身と仲間たちが描かれています。
白い服がヴェロネーゼ。
ターバンを巻いているのがバッサーノ。 紫の服がティントレット。
赤い服を着てコントラバスを演奏しているのはティツィアーノです。
このような宗教的な作品に自身と仲間の顔を描くことができたのは、当時のベネチアが芸術家たちに自由に絵を描ける環境を与えていたため、他と比べて、宗教的な面で自由だったためです。
さて 結婚式ですから
当然どこかに新郎新婦がいるはずですよね。
どこだと思いますか?
そうです。
左の隅に座っている二人です。
新郎は中東の雰囲気で、新婦は金髪の白人です。
この絵の中でこの二人を新郎新婦とお伝えするのにも二つの理由があります。
一つ目は服が一番華やかな点。
二つ目は、この中で一番表情が暗いという点です。
見ていただくと、本人の結婚式なのに、一番深刻な表情ですよね。
自分たちの結婚式なのに 葡萄酒がなくなってしまった。そんな不安を抱えているからなんですね。
そして、新婦の顔を見ると少し神経質に見えます。
新婦の左側、青い服に重たいひげの男性が新婦にしつこく絡んでいるんです。
これは面白い作り話ではなく画家がわざとこのように書いたんです。
また、この男性はフランスの王であったフランソワ1世なんです。
フランソワ1世はイタリアと大きな戦争を起こし、イタリアを困らせた王だったのです。そして、ダ・ヴィンチをフランスに連れていきました。脅迫をして連れて行ったわけではありませんが、やはりイタリアの人々にとってはフランソワ1世は戦争を引き起こして、ダ・ヴィンチまで連れて行ってしまった本当に悪い泥棒王なのです。
だから、わざと皮肉っぽく女性にまとわりつく男性のように描いたのです。
さらに ヴェロネーゼは この絵の中に イエスの死を暗示する三つの要素も描き込んでいます。
一つ目はイエスの頭の上を見ると少し右に傾いた黒い水差しが一つ見えると思います。
見つけましたか?この水差しはイエス様が血を流すということを象徴しています。
そして二つ目は水差しの上を見ると男性と女性がナイフで肉を切っています。見えますか?
はい、私たちはイエスを幼いひつじと表現するのですが、今男女が切っている肉が羊の肉です。どういうことかというと、イエスが十字架で犠牲になるという意味です。
そして三つめはイエスの下のほうを見ると楽器を演奏している人たちがいますよね。
その人たちの間にテーブルが一つあります。
このテーブルの上をよく見ると砂時計が一つ置かれています。
これはイエスの命が長くないということを示す場面です。
面白いですよね。
そしてこの作品もナポレオンが持ち去った作品のひとつです。
その時にこの作品以外にもいろいろな作品を盗んだそうです。
そこで、イタリアは返還を求め、イタリアの有名な彫刻家アントニオ・カノーヴァを筆頭にした交渉団を引き連れてフランスと交渉をして多くを取り戻しますがルーヴル初代館長ドノンがこの絵を隠してしまったため 返還されず 今もここ
ルーヴルに残っているんです。