メデューズ号の筏
今ご覧いただいているこの作品のタイトルは、 《メデューズ号の筏》です。
これは、実際に起きたメデューズ号沈没事件をもとに描かれた作品なんですね。
作者はジェリコー。 1791年に生まれ、1824年、わずか33歳で亡くなりました。
とても若くして亡くなった画家なんですが、 その理由は落馬事故だったんです。
もっと長く生きていたら、どれほどすごい作品を残しただろうと考えると、 本当に惜しい画家ですよね。
この絵は、1817年に起きたメデューズ号沈没事件の 翌年、1818年に描かれました。
描かれているのは、船が沈没し、筏の上に取り残された人々の姿です。
この作品を理解するには、 まずメデューズ号沈没事件を知る必要があります。
当時、メデューズ号は フランスからセネガルへ向かう船でした。
目的は、セネガルをフランスの植民地として 開拓することだったんですね。
当時のフランスは、ポルトガルやスペイン、イギリスより植民地獲得の面でかなり遅れていました。
そんな中、イギリスからセネガルを 植民地にできる権利を得たことで、 かつての栄光を取り戻そうとしていたわけです。
そこで、もともと軍艦だったメデューズ号を改造し、 多くの人を乗せて出航させました。
ところが、この船の船長だったショマレという人物は、本来この規模の船を操縦できるような能力がないのにも関わらず、王党派の貴族だったという理由で、コネを使って船長の座を手に入れたんですね。
かなりのお金も使ったでしょうし、
その分を取り戻したかったのでしょう、定員326人の船に なんと400人を乗せて出航します。
しかも、できるだけ早く到着しようとして 乗組員たちの忠告を無視して進んだ結果、船は岩礁にぶつかって沈没してしまいます。
でも、本当に恐ろしいのはここからです。
ショマレ船長は、乗っていた人の中でも身分の高い人たちだけを先に救命ボートへ乗せました。
残された人たちは、 メデューズ号の板を組み合わせて作った筏に乗せられます。
最初はその筏をロープでつないで 一緒に進んでいましたが、筏によってスピードが出ないとなると、なんとそのロープを切って自分たちだけで逃げていったんです。
こうして、筏に残された159人の前には、まさに地獄のような状況が広がります。
食べるものも飲むものもなくなり、最後には人肉までをも食べるようになりました。
事故から15日後、 いかだが発見されたとき、生き残っていたのは159人のうちわずか15人。
しかも救助後にさらに5人が亡くなり、最終的な生存者は10人だけだった、本当に凄惨な事件ですよね。
当時のフランス王政は、 この事件を隠そうとしましたが、結局世の中に知られることになります。
生存者の一人が本を出版し、ジェリコーはその本と 生存者たちの証言をもとに この作品を描いたんです。
では、絵の右側をみると左腕を高く上げている男性がいますよね。
その人物の左のお尻のあたりには、亡くなった黒人の遺体が うつ伏せになっています。
さらに、その人物の右のお尻と 筏をつかんでいる右腕のあいだを見ると、一本の斧が見えると思います。
その斧には、血がついているんです。
これは、筏の上で人々が殺し合い、 そして人肉を食べるところまで 追い込まれたことを示す象徴なんですね。
画面の下半分は、ほとんど死体で埋め尽くされ、当時の悲惨な状況が表現されているんです。
左にいる白髪の老人は、 遺体を抱えていますが、どこか魂が抜けてしまったような表情ですね。
この老人が抱えている遺体は、 自分の息子なんです。
流されていかないように抱えているけれど、 あまりの衝撃で精神が半ば壊れてしまっている姿が描かれているんですね。
こういった部分からこの作品を通して、画家が現実の過酷さを表現しようとしていたことが分かりますね。
そして画面の中央から上を見てみると、人々が希望を抱いている様子が伺えます。
どこかを見つめているのですが...
絵からはわかりにくいですが、右側からやってくる船を見ながら、自分たちの位置を知らせているのです。
そして実は、当時のフランスのブルボン王政は、この絵が描かれてから約11年後の1830年に崩壊してしまうんですね。
そして実は――
当時のフランスのブルボン王政は、この絵が描かれてからおよそ11年後の1830年に、崩壊してしまうんですね。
ここで画家は、とても小さくほぼ見えない小さな船に向かって手を振る人々の姿を通して、私たちに訪れる新しい世界、つまり理想を表現しています。
このように、実際の出来事をもとに絵に表しながらも単なる事実を描くだけでなく、この作品を通して、私たちがどこへ向かうべきかというメッセージも伝えているんですね。
結局、当時のフランスのブルボン王家はこの絵が描かれてから11年後の1830年に崩壊してしまいます。
そして、作者ジェリコーはこの作品を描くにあたって、さまざまな努力を重ねました。
実際に筏に乗ってオールをこぎながら、波の形などをできるだけリアルに描くために、綿密な探究を行ったと記録がありますが、感じますか?
それでは、ここで解説はひとまず終わりです。
もう少し作品をご覧になりたい方は、このままゆっくりとご鑑賞ください。
それでは、次の作品です。