ジュニエ爺さんの馬車
今ご覧いただいている作品は、アンリ・ルソーが描いた『ジュニエ爺さんの馬車』です。
ジュニエさんは、ルソーがよく通っていた食料品店の店主でした。
ルソーに食べ物をつけで売ってあげたり、ときには一緒に食事をしたりするほど、親しい間柄だったんです。
いつもお世話になっていることを申し訳なく思ったルソーは、ジュニエ一家が郊外へ出かけるために馬車に乗ったときの写真をもとに、この絵を描いて贈りました。
ルソー独特の画風で描かれているので、写真とまったく同じとはいえませんが、それでも写真をよく参考にして描いているのが分かりますよね。
大きな違いといえば、写真には写っていないジュニエさんの姪とその娘が、絵の中に加えられていることです。
そして、この作品で面白いのが、独特な構図と人物の描き方です。
絵を見ると、少し体をひねっているジュニエさんを除いて、ほかの人物たちはまるで古代エジプトの像のように、正面を向いています。
さらに人物の大きさを見ると、中世の絵画で重要な人物を大きく、そうでない人物を小さく描いたように、ルソーも人物の大きさを自由に変えて描いています。
さらに、犬たちの大きさや配置もとても独特です。
例えば、姪が連れている犬を見ると、まるで鬼のような頭に描かれています。
当時、姪は犬の耳にピンをつけていたそうで、ルソーはその姿をユニークに表現したのです。
また、馬車の下にいる犬は現実ではありえないほど大きく描かれている一方、馬の前にいる小さな犬は、逆に不自然なほど小さく描かれています。
そして馬を見ると、まるでつま先立ちをしているように描かれています。
そのため、馬が宙に浮いているようにも見えますよね。
このように、この絵に登場するものすべてが、まるで「これは現実の世界ではない」と語りかけてくるような不思議な感覚。それこそが、ルソー独特の絵画表現といえるでしょう。
それでは、ゆっくりと作品をご鑑賞ください。見終わったら、次の作品へ進みましょう。