接吻
今ご覧いただいている作品は、《接吻》です。
この作品は、ロダンを代表する作品の一つです。
それでは、作品を見ていきましょう。
この彫刻に表現されている二人は、ダンテの『神曲』に登場するパオロとフランチェスカです。
リミニ領主に嫁いだ若きフランチェスカは、夫の弟であるパオロと恋に落ちてしまいます。
そして二人は、ついに越えてはならない一線を越えてしまいました。
ロダンは、そんな二人の愛の姿をこの彫刻で表現したのです。
もともとこの作品は、《地獄の門》を飾る主要な彫刻の一つとして制作されました。
しかし、あまりにも美しく官能的な作品だったため、《地獄の門》にはふさわしくないと判断され、最終的には別の彫刻に差し替えられました。
とはいえ、「接吻」という主題を完全に取りやめることはせず、この作品とは少し異なるバージョンを制作し、《地獄の門》の右下に小さく配置しています。
その小さな彫刻も男女がキスをしている点は同じですが、ポーズなどが少し異なっています。
それでは、もう一度この彫刻に注目してみましょう。
この作品には、ロダンの「ノン・フィニート(non-finito)」という技法がよく表れています。
ノン・フィニートとは、イタリア語で「未完成」を意味する言葉です。
ご覧いただくと、男女が腰掛けている岩は表面が粗く、まるで彫刻の途中で制作を止めたかのような仕上がりになっています。
このような表現技法を「ノン・フィニート」と呼びます。
また、二人の顔や上半身は非常に精巧に彫刻されていますが、腕や脚はあえて簡潔な表現にとどめられています。
これは、ロダンが人物の感情や主要な動きに重点を置き、それほど重要ではない部分はあえて細かく仕上げなかったためです。
これもまた、「ノン・フィニート」の技法の一つなのです。
ロダンは、この作品を1887年に初めて一般公開しました。
公開されるとすぐに、この作品は《接吻》という名で広く知られるようになり、大きな成功を収めます。
ちなみに、この彫刻にはイタリア北部カッラーラ地方で産出される最高級の大理石、カッラーラ大理石が使われています。
バチカンにあるミケランジェロの《ピエタ》や、ローマのパンテオン、ロンドンのマーブル・アーチなど、数々の名建築や名作にも使用されていることから分かるように、カッラーラ大理石は世界最高級の品質を誇る大理石として知られています。
だからこそ、この彫刻からも気品と高級感が感じられるのかもしれませんね。
それでは、ゆっくりご鑑賞いただき、ご覧になりましたら次の作品へ移動しましょう。